別冊イチカレイカ

〆切のサブスク

奇術に寄す記述

ここで書きたいのは私がどれだけ衝撃を受け、どれだけありがたく思っているかということであって、作品の紹介ではない。もうずっと何か言いたくてしかたなくて、でもうまくまとまらなくて、けれどももう今しかないだろと書き始め、それでもここまで二ヶ月かかった。

私にとってのマンガは、まず怪盗セイント・テール立川恵)から始まる。厳密に言うなら美少女戦士セーラームーンなのだろうが、あの作品は出会ったときすでにアニメ化されており、当時の私には全貌を掌握しきれない巨大な何かであったため少し異質だ。その点Stテールは連載開始をなかよし本誌で目撃したこともあり、一つの作品に執着するということを初めて経験したという意味で、より思い出深い。全サがあればStテールを選び、番外編が載ればるんるんも買った。21話は多分私が出会った初めての萌えだし、ソファの隙間に埋まって何度も何度も読み返していたのを今でも覚えている。真似して絵を描いたマンガは後にも先にもこれだけだ(数回で向いてないと悟ってやめた)。立川さんの作品は、Stテールの次に連載された夢幻伝説タカマガハラも同じくらい思い入れがあり、やっぱり21話は覚えるほど読んだ。今思うとタカマガハラの主人公を取り巻く五人はかなり恋シュミっぽい設定配分で、彼らには多大な影響を受けている気がする。だいぶ後になってからだが、番外編的な個人誌も買った。

次にHUNTER×HUNTER冨樫義博)があって、週刊少年ジャンプがあった。HxHは少女マンガに飽き始めていた私に異なるマンガの世界を見せつけ、またオタク側に突き落としもした、すべての要因と言っても過言ではない作品だ。考察と休載の概念を教えてくれたのはHxHだった。コミックスと本誌を追うのはもちろん、感想サイトを巡りアニメを録画しラジオを聞いてCDを買った。田舎がつらかった。それぐらい衝撃的なおもしろさだった。そしてそれが今も続いているのだから、本当にマジで頼むからどうか最後までお願いしますお願いしますお願いします……。今も続く長いジャンプ時代はこうして始まった。

それから数年、当時のメジャーどころを渡り歩くも、HxHほどのクリティカルヒットは出なかった。そんなものなのだろうかと思っていたある日、ふと思いついて買ったのがレベルEだ。HxHも幽白も読んだけど、これはまだだな、しかも全三巻じゃん。地元の本屋の棚の中、いかにも長い間ここにいますというそれをまとめて連れ帰った。結果、完全にセカンドインパクト。なんで今まで買わなかったんだ。同じ作者に二度も壁を壊されるなんて思ってもみなかった。なるほどこういうのもアリですね、マンガすごい、マンガおもしろい、おめでとう、おめでとう、やっとわかった、私はこういうのが読みたかったのか。このときから、好きなマンガを聞かれたら、レベルEと答え続けている。

その後も様々手を出しつつも、心穏やかな、逆に言えば驚きのない日々を何年か過ごしていた。だがしかし、事件はまたしても本屋で起きる。いつの頃からか販促として多く用いられ出した、試読見本。今でもあればあるだけ読むが、その場で購入即決は現状この作品だけ。それがファンタジウム杉本亜未)、今日の本題。この作品もHxH同様、次巻正座待機してたら脚の感覚なくなる系なのだが、こちらは先日めでたく最終巻となる九巻が出た(冒頭の今しかないはこのことだ)。ちなみに八巻が出たときは公式? ご本人? に補足されてヒッてなった。出会ったときには三巻まで出ていたのだが、その時点で話の丁寧さ、それによりもたらされる圧倒的な安定感に打ちのめされた。九巻まで読み終わり、やっと起き上がって、これを書いている。派手さはない、けれど、どこをすくっても人が生きている。主人公を起点に、人と人とが関わり、変化し、日々が続く。アニメーションでは静かすぎる、小説では重すぎる、この世界とこの空気は、マンガ以外では実現しえなかった。絶妙なバランスの上に成り立つ、濃い作品だ。

杉本さんについては、震えながら四巻を待っているときに、ちょっと別のも読むぞと思って調べて、なんかもうアッJUNEアッハイみたいな感じで買ったのが独裁者グラナダ。いやあ死ぬかと思った。表題作とBirthdayの二編収録でどちらも素晴らしいのだが、特にBirthdayはもうあっ、これ、これですだった。そしてさらにある日、偶然読む機会を得たちょい古めのマンガ一山の中に、空のアンテナ(1997年の方)があった。読んだ。死ぬかと思った(二回目)。もうこれ運命だろ。もちろんその後2010年に出た方を自分用に入手した。これだけの充実感を与えてくれる作家は一体世の中にあと何人存在して、私は死ぬまでにそのすべてを見つけ出して読むことができるのだろうか。そんな心配をするほどだった。なおこれを書きながら97年版と春やきぬらんを中古でぽちっている。覚悟が決まったのでANIMAL Xも今日大人買いしてこようと思う。アマイタマシイまで読んだら、ファンレターというものを書いてみたい。何を伝えればいいのか、全然、わからないけど。