別冊イチカレイカ

夏短すぎ問題

話しかけられた

元ネタは

からの


  Sugar War

 あれはどうしようもない一日だった。まとまりの悪い髪は完全に伏線だった。雨は昼過ぎから容赦なく降り始め、フルレングスのパンツは裾が重たくなり、全ての距離が遠かった。纏わり付くような頭痛に食欲もわかず、駅前のコーヒーショップに立ち寄り、カウンター席に腰を下ろした。目の前の窓を雨粒が途切れることなく流れていくのを、ただぼんやりと眺めていた。しばらく無為に時を過ごしていると、不意にガラスに映る影が濃く広がった。
「あの」
 その声に振り返る。チョコレートブラウンのショートボブ、淡いチーク、細いネックレス、白いシャツ。何もかもが私を天才的に苛立たせた。
「サトウさんですか?」
 申し訳なさそうに寄せられた眉根は決定打に他ならない。いえ、違いますけど、と極めて温度を持たない声で答えた。顔を知らない人と待ち合わせだろうか、何繋がりで? 何のために? 品の無い勘ぐりが一瞬で駆け巡る。
「そうでしたか、すみません」
 そう言って彼女は隣の席に座った。他にも空いている席はいくつもある中で、なぜか隣に。気にするのをやめようと、私は水滴の行く末を見守る作業を再開した。
「ヤマモトさん」
 はっきりと名前が呼ばれ、敢えなく私の意識は彼女に戻された。まだ用事があるのか、いやそれよりなぜ名前を知っているのか。今度こそ隠しきれない困惑を露わにする私とは正反対に、彼女は自信に満ちた輝く微笑みを浮かべ、こう告げた。
「……サトウに、なりませんか?」